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LaundryHeavenly.
第16章 Heavenly.16
『殺してやる』
マキアート王子の鋭い瞳は
塞がれる迄そう言っていた。
王子が私に触れることも
私が王子に触れることも───もう、ない。
王子は私の手の及ばぬところへいったのだ。
王子は私を永遠に恨むだろう
私も王子を永遠に憎むだろう
サラサはいない。殺したのは王子。
それは何にも変えられない、事実。
『負の感情』は王子の力の源。
わかっている。わかっている。
だけど
王子への感情を断つ。それはつまり
『サラサを殺した』それを許すこと
…できない。どうしても、できない。
王子は私の手の及ばぬところへいった。
私も今王子の手の及ばぬところにいる。
私の感情が王子の力になるなら
王子は私を、永遠に恨めばいい。
恨んでも恨んでも私はいない
恨みを晴らすことが叶わない
それは何にも勝る苦痛のはず。
─そう、地獄よりも。
────────
「本当に行くのか、レノ」
私の前には、ブライトさん。
彼の読み通り戦は一気に終息へと向かった。
第3王子の暴走に辟易していた敵国…父王は
王子を見限り差し出す事で手打ちとさせた。
沢山人が死に、血が流れたのが嘘のよう。
私達の国は、元の平穏を取り戻したのだ。
「これからどうするの、レノちゃん」
ハイジさんが私に問う。いつかと同じ事を。
でもその瞳はいつかとは違う色をしたもの。
行くあてはない。だが彼らとはいられない。
「…レノさん」
ナノさんが頭を下げた。すみませんでしたと。
…謝らないで。謝るのは私。私はあなた達から
言葉にも形にもできないかけがえのないものを
沢山頂いた。なのに何も返せなかったのだから
部隊は解散。部隊長も謀略兵も衛生兵も
専属娼婦も、今日限りでいなくなるのだ。
彼らが私のこれからを知らないように
私も彼らのこれからは知らない。
今、この場で、お別れだから。
「さようなら」
歩き出した私は振り向くことはない。
歩き出した私を彼らが追う事はない。
「…ありがとう」
私は生きていくのだ。『私』が選んだ道を。
完