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ひととせの自由
第1章 私がバカでした。
「中村ひととせさん──だよね。お金、返してくれる?」
絵に描いたような、借金の取り立てです。
────────────
木造2階建て、築52年。トイレ共同、風呂なし、6畳一間の1K。駅から徒歩xx分。家賃激安のボロアパート。
入居時、大家のおじさんにすら「女の子が一人暮らしする部屋じゃない」と言い捨てられた、私のお城。
そこに土足のまま上がり込んだ、黒スーツに身を包んだ男性が3人。その風貌、どう見てもヤのつく自営業の方々です。本当にありがとうございました。
──あぁ、ヤッバ。もうずっと彼氏の愚痴を某巨大掲示板に垂れ流すのが日課になってたから、ついそっちモードに入ってしまった(ちなみに必ず『おまえが悪い』と論破されたうえに『報告者がアホ』カテでまとめにも掲載された…)。
──いや、まって待ってマッテ!!!
確かに私は(世間様から見たらダメな)彼氏持ちの薄給看護師です。私よりも更に収入の少ない彼を自宅に住まわせ、養ってました。二人の愛と生活を維持するためにお金が必要だったから、借金もあります。
だけど私が借りたのはもっと良心的なところ。こんな恐ろしげな方々から借りた覚えないんですけど??!
心中ド修羅場の私に構うことなく、黒スーツ三人衆の真ん中にいた御方(20代位なのに責任者っぽい。…なんなのこの威圧感…)が、淡々と話を続けて下さった。
「東郷平七郎さん、知ってるよね」
「とっ…?ど、どちら様でしょうか…」
「あんたのヒモ」
「…。あ、彼氏ですか?彼なら東城院蓮哉って名前で…」
「それ、源氏名だよ。本名は東郷平七郎」
「……」
「知らなかったの?」
はい、全くもって初耳でございます。
交際してもうじき一年になりますが。
彼氏の職業はホスト。本名でお店に出てるなんてすごいなぁ~とは思ってたけど、源氏名でしたかそうですか。
「で、彼、うちから金借りてるの」
「はぁ」
「で、あんた、連帯保証人だよね」
「はぁ……」
「で、彼、“飛んじゃった“のね」
『飛んだ』。つまり、逃げた。
…私に借金を丸々押し付けて。