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ひととせの自由
第1章 私がバカでした。

『ひととせ、これに名前書いてハンコ押して!頼むよ!俺、お前しか頼れないんだ!』

確かこんな感じで懇願されたんだよなぁ。

「大事な話がある」ってL1NEが来て、「もしかしてプロポーズ…?♡」って期待して、夜勤明けのハイテンションのまま帰ったら、テーブルに紙とペンがあって。
「キタ━(゚∀゚)━!」と思ったら、借用書で。

普段素っ気ない彼に頼られるのが嬉しくて、連帯保証人欄て分かってたけどホイホイ署名捺印しちゃったんだ。
『次名前書くのは婚姻届な』でとろかされちゃって。

思い起こせば、彼のお店に行った時に高いお酒をねだられるのと同じノリだったんだけどね…ハハ…


じゃないよ。え、なんですと?あいつ逃げたの?
いいいいくら借りてたの??


「えっとね、元金が50万でしょ、そこに利子と、遅延分と、こうして俺らが忙しい中わざわざ来てあげた足代でしょ、その他諸々でしょ」

諸々って…。

「ついでに、君個人が借りてるとこはウチの系列会社だから、それもまとめてあげたら……総額、これね」
「はああああ?!」

スーツ男性から渡された紙を、穴が空くほど見つめた。

0が、ひとつ、ふたつ、みっつ、よついつむうなぁ…
ダメだ、気が遠くな……


「じゃ、耳揃えて返してくれる?」


……るのも許してくれないスーツ男性様。

そんなこと言われても、ない袖は振れません…

なにしろ勤務先だった病院は、院長が診療報酬不正請求、私文書偽造、院長夫人である事務長は業務上横領、跡取りだった長男の若先生は、妊娠させた不倫相手を殺害未遂(!)でそれぞれ逮捕されてしまい、給与未払いのまま閉院してしまったから。
今絶賛ワイドショーを賑わせとるあの病院ですよ…

彼氏一筋だった日頃の不義理が祟り、友人はゼロ。両親なんか数年前から音信不通。貯金なんかとっくに無いし、今夜食うものにも困ってたところなんですから……
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