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ひととせの自由
第6章 熊猫首領。
「蓮哉あぁぁぁ!!!何やってんのよおおおっ!!!」
私の咆哮は、診察室にこだました。
怒りで体が震えたのは、生まれて初めてだった。
「落ち着いて、ひととせちゃん」
蓮哉もお姉さんも黒スーツ様方も…田中くんも捌けた診察室。
ドクターズチェアに凭れて座る四季先生の横で、患者用の丸椅子に腰掛けて。懐から取り出したチュッ〇チャプス(プリン味…!)を味わいつつ、私にお犬様誕生秘話を話してくれた河村さんは、静かに諌めてきた。
「ま、東郷くんは下っ端で、今回もただの見張り役だったみたいだけどさ。田中くんには関係ないもんね」
みんな同罪だよ。と。チュッパ〇ャプス(プリン味…!)の甘ったるさとは正反対の苦い現実も、セットで。
てか、東郷くんて誰だ?…あっ、蓮哉の本名だ。
東郷平七郎 だっけ…なんか色々惜しいところがあやつの人生を象徴しているように感じてしまう。
「明日臨時休診にしていい?光太郎くん」
「ん?いいよ。せんせーアメいる?ラムネ味あるよ」
「え、嬉しいな。僕の好きな味覚えててくれたんだ♪」
「もちろんだよー。はい、あーん」
「あーん」
なんなんすかあんた方付き合ってんすか?と小一時間問い詰めたくなるほど(絶対しないけどな!)和やかな、闇医者とオーナー。
こちとら感情の振り幅が大きすぎて疲弊しとるってのに…。だが、訊くなら今しかねぇ!
「かか河村さん…?蓮哉…はどど、どーなる…んですか?」
「んー、わっかんないなぁ。田中くん次第だね」
「…ここ、ろされ…る、ですか?」
「かもね。ヒフミちゃんの方は確定だけど」
ヒフミちゃん は、あのおねーさん。
(よもや私のナース服が死装束になるとは…どうかどうか祟られませんように)
悪いお薬を売りさばいていたらしい彼女と、借金おっかぶせてトンズラどころか、なんの落ち度もない女の子の心と体を深く深く傷つけた奴らの一味だった蓮哉にはもう、1ミリの情もないけど。
──この坊やたちはいく所までいってもらう──
あれは……『逝ってもらう』だったのか。
我らがオーナー、河村さんは、おっかない人。
改めて思い知り、戦慄せずにはいられなかった。