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ひととせの自由
第1章 私がバカでした。
「俺の持論なんだけど、名字がなんとか村さんって子は真面目な頑張り屋が多いんだよね。だから、助けてあげたくて」
「あはは…私、ラッキーですねぇ…」
身の回りの荷物(とも言えないホントに最小限のもの)だけ抱えて。ピカピカに磨き上げられた漆黒の高級車の後部座席に乗り込んだ。…うわ。シート、ふっかふかだ…
「逆に村なんとかさんだったら俺もー怖くて堪んなくて、問答無用で某国の大富豪に愛玩用として売り飛ばしてたよ」
「あはは…私、ほんっとラッキー…。…なんでこわい??」
「昔、村なんとかさんに散々無茶させられたから」
やたらフレンドリーに接してくれる神様にやや戸惑いつつ、車は夜の歓楽街を走り抜けていく。
流れていく煌びやかさを横目で見送りながら、否応なしに高まっていく不安を押し殺すことに努めた。
「まあ、これからよろしくね。ひととせちゃん」
差し出されたのは、薬指に指輪が光る左手。
緊張で、自分でもわかるくらい引き攣った笑顔を浮かべながら、恐る恐る握手を交わした。
「申し遅れました。俺、河村光太郎」
「よ、よろしくお願いします…」
『左手での握手』その真の意味。『河村さん』この人が、神は神でも死神だったこと。世間には私が想像もできない人間や、世界が存在すること。
そしてなにより…『私』がどれだけバカなのか。
全てを、これから身を以て知っていくのだった。