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ひととせの自由
第2章 すこやかパンダクリニック
「ぁん…っ、……ああんっ!」
──なんなのこれ。
「だめぇっ……、いっちゃうぅ…ッ!」
これ一体、どういう状況なのよ…
──────────
自宅アパートを後にしてから、小一時間。
停められた車を降りた先。『診療所』は、繁華街からそう離れていないとは思えないほど、閑静な住宅街の中にあった。
わりと年季の入った二階建て。パッと見、民家にも見える。一階が診療所で、二階は休憩室…いや、住居?
とにかくその外観は、思いっきり『町医者』。なんか、子供の頃通ってたお医者さんを思い出すなぁ。私、野生児だったから怪我が絶えなくて、よくばーちゃんに連れられて行ってたんだよね。
そこ、先生は愛想なかったけど、看護師さんが綺麗でとっても優しくて…私が看護師を目指すきっかけになったんだよなぁ。
夢を叶えたはずなのに、どうしてこんなことに……あぁ、私がバカだからか…ハハ…
深夜0時近いのに、ガラス張りの玄関ドアからは、閉じられたカーテンの隙間から灯りが漏れていた。
急患がいるかもね、と。河村さんは慣れた仕種で呼び鈴を鳴らしながら言った。
聞けば、やはりドクターはここに住んでおり、患者の受け入れは基本24時間行っているらしい。
すごい使命感…さぞ意識の高い、厳しいドクターなんだろうな。私がここに来た事情も事情だし、前の病院とは比べ物にならないほど、風当たりキツいんだろうな…
そんなことを考えていたら。ふと、ドアの内側に吊り下げられた小さなボードが目に付いた。
よくある『本日の診察は終了いたしました』だ。あー、一応出しとくんだ…と、ぼんやり眺めた。
しかし、その下に書かれた文字を…二度見してしまった。
『すこやかパンダクリニック』
は?
「この診療所の名前だよ」
河村さん?
「元々違う名前だったんだけどね、地域の皆様により親しまれる診療所にしたくてさあ、俺とここのドクターで付けたの」
「いいでしょ」と。にこにこしながら教えてくれた河村さんに、「か、可愛い名前ですねぇ」としか返せなかった。
これから私が身を粉にして働く職場の、外観と一ミリも掠りもしない診療所名は、一瞬で脳にインプットされたのだった。
「…お疲れ様です、オーナー」
そうこうしているうちに、ドアが開いた。