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第6章 6
「誰の所為だと思ってるのよ!
 私だって、泣きたくなんか、泣いてなんか、無い・・・」


押さえつけられていた腕の力が急に弱り、
男が紗織の右目にそっと唇を寄せ、涙を吸い取ったので、語尾が濁った。

驚いて瞬く瞳から、また雫が流れた。
男の唇がまた近づいたので、紗織はびくりとして目を閉じた。
柔らな感触が、新たに流れた涙の雫を舐めとる。

打って変わった男の振る舞いに、動揺する心を押さえ込んで、懸命に言葉を捜した。


「それに・それに・・・お前お前って、呼ばないでよね。
 私にはちゃんと紗織って名前があるんだから」


「そう だったな」


男が軽く微笑んだので、紗織はどきりとした。


「紗織・・・・・・・・・紗織・・・紗織」


涙の跡をすくい取って、男の唇が頬をつたって紗織の細い首筋を這う。


(・・だからって、連呼しなくても・・・)


男の手が、紗織の胸のふくらみを包んで、指先に優しく力を込めた。
男が触れるところから、肌の色が染まっていくようだった。


「こうして呼んでみると、違うな・・・全然」


呟くように男が言った。


「何・・・何が・・?」


紗織は尋ねた。


「お前には関係の無いことだ」


僅かに微笑んで答えたその顔が、再び近づいて紗織の唇を吸う。
手が、なめらかな皮膚を撫でて、下腹部へと向かった。
閉じ合わせた股の隙間から、指が、ゆっくりと分け入ってきた。

まだ潤いの少ないその割れ目を、下着の上からなぞる。


「今日は、言わせてみせるからな」


男の唇が、魅惑的な響きを含んで紗織の耳元で動く。


「あっ・・・や・・だから、何・・・ふっ・・ぁ・・ああ 」


滑りのある舌が、耳の周りをちろりと舐めたので、紗織はぞくぞくとして身を震わせた。
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