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真紅の花嫁
第1章 深緑の美術館


矢崎真波が朝比奈市立美術館の学芸員となって、もうじき四年になる。
大学院で美術史を専攻し、この美術館の一員となった。

学芸員は希望者の数に対して、極端に席の少ない職種だ。

小さいとはいえ、卒業してすぐに公立の美術館に職を得ることができたのは、かなり運が良かったといえるだろう。
二十八歳という年齢は、ここの学芸員のなかでは最も若い。

「へえ、姫川さんて神尾女子なんですか。
すごいなあ」

後ろで亮の声がした。

五時をたいぶ過ぎているのに、まだ事務室でおしゃべりしている。

他のアルバイトたちが引き上げたあとも、ひとりだけ残って、美術館の裏方仕事を眺めていることが多い。
スタッフたちもみな、この人懐っこい高校生を可愛がっていた。


話題はどうやら、今日あいさつに来た女子大生のようだ。

神尾女子は全国に名の通った、偏差値の高い大学である。
格式や学費が高いことでも有名だった。

「そうなのよぉ。しかも、大変なお嬢さま」

市ノ瀬がやけにうれしそうに言った。

こういう話になると、親戚のオバサンみたいな感じになる。
美術館の運営や作品展示への、妥協を許さないきびしい態度とは、まるで別人だ。

秘密を打ち明けるように声をひそめて、

「姫川って、ほら、あの姫川家の」

「あの、とか言っても、わかんないんですけど」


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