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真紅の花嫁
第1章 深緑の美術館



夕方の事務室。

スマホが着信ランプを知らせてきた。
婚約者の武藤《むとう》陽介《ようすけ》からだった。

〈今夜、会えないかな〉

前回のデートは、陽介に緊急の仕事が入ってドタキャンされた。
申し訳ないと何度もあやまってくれた。

日々、タイトな予定で動いている陽介だが、どうやら、たまたま時間が空いたらしい。

しかし、今日は真波の方が忙しかった。


〈ごめん。まだ仕事が終わらないの。今日はちょっと無理かな〉

〈そうか〉

何気ない文字の裏に、気落ちした表情がうかがえた。
そう思うと、どうしても会いたくなった。

〈あ、でも九時過ぎなら行けるかも。
それでもいい?〉

〈もちろん! 一緒に食事をしよう〉

急に文字が踊るようだった。



待ち合わせの場所を決めて、スマホをしまう。

ゆるみそうになる口元を、きゅっと引き締めて、真波はパソコンに向かった。

来週の常設展のキャプション(作品の説明文)を、なんとか今日じゅうに終わらせたかった。


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