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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第4章 柔らかな寝台と触れた熱
当のそのひとは、部屋の奥に据えられた寝台の中。艶やかな布の天蓋に覆われた、いかにも秘密めいた場所。
彼女が真実「彼女」であることに、もう疑う余地はない。
やわらかな手が存外にちいさいことも、胸が彼女の性格をそのまま映したように大きいことも、ここ数時間で知った。知ったせいなのか、やたらと天蓋の向こう側が気になってしまう。
きっと彼女は、女王蜂。
彼女がいる場所から、蜂蜜のようなあまい香りが漂ってくる、気がする。
陽色は一度、寝椅子の上でまるくなった。毛布は温かく、椅子の表面は柔らかく、彼女がたっぷりと置いてくれた座布団も心地良い。
それなのに何だか落ち着かない。どうしても天蓋の内側が気になってしまう。
あの細いからだを抱きしめてみたい。細く見えるというだけで、細い分には陽色の方が幾らも細くて、華奢であるとわかっていても。今まで陽色に触れてきた何よりも、あたたかくて、やさしくて、うつくしくて。やはり気のせいじゃない。甘い、あまい香りがする。
下手に女を知っているせいで、やたらと生々しく想像してしまっていけない。彼女らは、陽色の小さくて整った顔と、華奢で細い手足と、幼気でいとけない仕草で喜んでくれたものだけれども、あのひとは果たしてどうであろう。声を高くつくって、枯れることなく涙をながして、えんえん泣いて許しを請えば、喜んでくれるだろうか。
……試してみても、良いだろうか。
追い出されるだろうか。
お礼、と云えばいいだろうか。
あれこれと考えている内に、陽色はいつの間にか寝椅子から立ち上がり、天蓋のすぐそばまで来ていた。
そうっと指をかけ、中を覗きこむ。
天蓋の内側には大人が三人はゆうに眠れるほどに広い寝台があった。枕元には洋燈が置かれている。その柔らかな橙色の灯りの下、すみれ色の毛布に埋もれて、彼女は本を読んでいたようだった。
彼女が真実「彼女」であることに、もう疑う余地はない。
やわらかな手が存外にちいさいことも、胸が彼女の性格をそのまま映したように大きいことも、ここ数時間で知った。知ったせいなのか、やたらと天蓋の向こう側が気になってしまう。
きっと彼女は、女王蜂。
彼女がいる場所から、蜂蜜のようなあまい香りが漂ってくる、気がする。
陽色は一度、寝椅子の上でまるくなった。毛布は温かく、椅子の表面は柔らかく、彼女がたっぷりと置いてくれた座布団も心地良い。
それなのに何だか落ち着かない。どうしても天蓋の内側が気になってしまう。
あの細いからだを抱きしめてみたい。細く見えるというだけで、細い分には陽色の方が幾らも細くて、華奢であるとわかっていても。今まで陽色に触れてきた何よりも、あたたかくて、やさしくて、うつくしくて。やはり気のせいじゃない。甘い、あまい香りがする。
下手に女を知っているせいで、やたらと生々しく想像してしまっていけない。彼女らは、陽色の小さくて整った顔と、華奢で細い手足と、幼気でいとけない仕草で喜んでくれたものだけれども、あのひとは果たしてどうであろう。声を高くつくって、枯れることなく涙をながして、えんえん泣いて許しを請えば、喜んでくれるだろうか。
……試してみても、良いだろうか。
追い出されるだろうか。
お礼、と云えばいいだろうか。
あれこれと考えている内に、陽色はいつの間にか寝椅子から立ち上がり、天蓋のすぐそばまで来ていた。
そうっと指をかけ、中を覗きこむ。
天蓋の内側には大人が三人はゆうに眠れるほどに広い寝台があった。枕元には洋燈が置かれている。その柔らかな橙色の灯りの下、すみれ色の毛布に埋もれて、彼女は本を読んでいたようだった。