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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第7章 終幕
 この子にはきっと、紅や黒が似合う。

 どんな強い色を使っても、きっとこの黒は、赤は、負けない。くちびると目許に紅を引けば、日に焼けない白い肌がより映えるだろう。

 兄に強請って、今度は、顔の見える絵を描いてもらうのもいいかもしれない。それなら、せっかくだから、この都にいる内に、姉に頼んで、曲を作ってもらおうか。なにせ金ならあるのだから、劇場を押さえるのは容易いだろう。嘗ての天才三人が、一度に復活する大舞台なのだから、広告さえ打てば、人は集まるはず。

 そう。どれだけ弾圧しても、ひとの心をつかんではなさないものは、簡単にはなくならない。

 屹度、聡明な彼らは、遅かれ早かれ、切っ掛けが何であれ、いずれはこうなると、わかっていたのであろう。わかっていたとしても、実行したのだ。けれども、たとえば露崎がそうであるように、西園寺の信奉者は未だに一定数存在する。それは何も、西園寺理央に限った話ではない。

 ざらついた歌と、捩れたような踊り、歪なくせにあいらしく、華奢なくせに力強くて、おぞましいくせにやけにうつくしい人形を胸に抱き、嘗ての女帝はいずれ復活する。

 末の娘の表舞台に関わるようになれば、遠くないうちに兄や姉も時代に戻ってくるだろう。

 __そうして、天才、狂人、化け物たちの時代は、再びやってくる。

 そんな光景の幻を見ながら、リオは、この子が立つのはやはりステエジが相応しいのかもねえ、等と考える。

「……君、ほんとうにきれいだよね」
「え、うれしい!」
「ああ、」

 格好いいよ。

 薄いくちびるで云いながら、リオは陽色のくちびるに、自らのくちびるをそうっと重ねた。

 ふっくらと柔らかくて、ミルクのようにあまいにおいがするくせに、やたらと冷たいくちびる。真黒くて柔らかい髪を指先で弄んでやり、もう片方の手で陽色の腰を抱く。

 おいで。

 吹き込まれた息の意味を、このお人形は正確に読み取ったらしい。

「窓が開いているから、先に、閉めておくね、」
「ん、」

 リオが曖昧に答え、熱を孕んだひとみで見つめる中。

 細い腕が存外にながく伸びて、硝子を閉じた。
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