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氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜
第4章 フェガリ
「ラウル……」
「僕は大丈夫だから、そんな顔しないで」
 ラウルの前にしゃがんで髪を撫でると、ラウルは力なく笑った。弱々しいその笑みは、見ているだけで心が痛む。
「無理しないで。帰ったらお医者様に診てもらいましょう」
「薬屋さんが診てくれたのに?」
 メディナのことを疑っているわけではないが、ちゃんとした医者に診てほしい。今すぐにでもそう言いたいが、いつメディナが戻ってくるか分からないこの状況では言えない。

「カミリア様、お薬をお持ちしました」
 メディナは紙袋と水を持ってキャリッジに戻ってきた。カミリアがラウルを抱き起こすと、メディナは紙袋から1回分の薬を出し、ラウルに飲ませる。
「これは風邪薬の中でも1番効能があるお薬です。大抵の風邪は、これを飲んで一晩寝れば、回復します。それと、こっちは疲れを和らげるお薬です。風邪薬は3日分、疲れを取るお薬は1週間分出しておきます」
「ありがとう、メディナ。一度店に戻って、会計を……」
「ここでも構いません。お連れ様をはやく休ませてあげてください」
 メディナのお言葉に甘えてその場で支払うと、御者にもう行っていいと伝え、急いでフェガリへ向かう。

「カミリア……」
 カミリアを呼ぶラウルの声はとてもか細く、走行中の馬車の中では聞き取りにくい。カミリアはラウルの口元に、自分の耳を寄せた。
「どうしたの?」
「膝枕、してほしいな……」
 いつもなら跳ね除けるような要求だが、今回ばかりは罪悪感がある上に、ラウルは病人だ。カミリアは言われたとおり、膝枕をする。

「ははっ、鎧のまんまなんだ」
 ラウルはクスクス笑いながら、手の甲でカミリアの鎧を軽く叩く。平静を装うも、誤魔化し切れずにいる自分が恥ずかしい。
「あ、ごめんなさい! 今脱ぐから……」
「いいよいいよ。冷たくて気持ちいいから」
 それだけ言うと、ラウルは目を閉じて寝息を立てた。
 カミリアは1秒でも早く屋敷につくことを祈りながら、ラウルの顔にかかった髪を耳にかけた。
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