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氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜
第4章 フェガリ
 屋敷に着く頃には、薬が効いたのか、ラウルは静かに寝息を立てて眠っていた。顔の赤みも心なしか少し引いている気がした。
「ソニア様、ラウル様をお運びします」
 御者はキャリッジのドアを開けて中を覗き込む。彼の表情から、ラウルがどれだけ心配されているのかが伝わり、あたたかい気持ちになる。
(きっとそれだけ、ラウルが使用人達に優しくしているってことよね)
 シャムスにいた使用人達を思い返してみるが、こんなに主人思いの使用人は見たことがない。貴族の護衛任務をしていると、時々使用人達の会話が聞こえてくるが、彼らはいつも主人の陰口をたたいていた。彼らの話を信じる限り、使用人達をぞんざいに扱う貴族に非があるのだが。

「いえ、私が運びます」
「しかし……」
「大丈夫、これでも力はありますから」
 カミリアはラウルを抱き上げると、キャリッジから出た。それとほぼ同時に、ルナが屋敷から出て駆け寄ってくる。

「ソニア様、その格好は!? それに、ラウル様はいったい……」
「話は後。ルナ、悪いけど私の剣を運んでくれる? あなたになら任せられるわ。それと、医者を呼んでほしいの」
 カミリアは口早に言うと、ラウルの部屋に行く。本当は剣を他人に触らせたくはないが、今はそんなことを言っている場合ではない。それに、初めて屋敷に来た時にやむを得ず彼女に剣を運ばせたが、彼女は剣の持ち方を知っていた。

 ラウルの部屋に入り、彼をベッドに寝かせようとした瞬間、ドアが乱雑に開き、燕尾服を着た神経質そうな男が入ってきた。鮮やかな赤髪をオールバックにし、モノクルをかけている。彼はカミリアを見るなり、害獣でも見るように目を細めた。
「なんなんですか、貴女は。何故シャムスなんかの騎士が、ここにいるのです?」
 棘のある言葉と視線に、カミリアは固まる。何故初対面の相手にここまで言われなければいけないのかと腹を立てるが、今は喧嘩をしている場合ではない。
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