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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第8章 ♦RoundⅤ(覚醒)
 しかし、後悔という言葉が嫌いな有喜菜も、あのときのことだけは今でも考えずにはいられない。
 そう、他ならぬ二ヶ月余り前のこと、紗英子から代理出産の依頼を受けたときの話である。
―私と直輝の子どもを生んでくれない?
 真摯な紗英子の瞳には、どこか憑かれたような光すらあって。
 むろん、有喜菜は断るつもりでいた。が、ふいに〝直輝の子ども〟というフレーズに心が揺らいだ。直輝が選んだのは自分ではなく紗英子であり、彼と人生を歩んできたのも他ならぬ紗英子の方。本来であれば、部外者となってしまった自分が直輝の人生に関われる―しかも彼の子どもを身籠もり世に送り出すことなど、できるはずがない。
 しかし、どういう運命の巡り合わせか、自分にはチャンスが巡ってきた。たとえ紗英子が自分を子どもを得るための道具扱いしたって、それが何だというのだろう?
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