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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第8章 ♦RoundⅤ(覚醒)
 有喜菜がその部屋を望んだ時、紗英子は一瞬、顔を曇らせたものの、すぐに笑顔で〝良いわ〟と頷いた。有喜菜の胎内に受精卵を戻す処置自体は無事に終わったはずだが、経過観察と用心のために、最初から一泊することに決まっていた。
 直輝が代理出産に関して、どう考えているか。それについて、紗英子は一度も語ったことはない。しかし、中学時代からの直輝の性格を考えて、彼がこの話に全面的に賛成しているとは到底思えなかった。第一、直輝が賛成している、もしくは乗り気であれば、治療に一度も顔を出さないのは不自然すぎる。
 仕事があるから、普段付き添えないのは理解もできるが、幾ら何でも一度もクリニックに来ないのはおかしい。そのことから、有喜菜はやはり、彼が代理出産に否定的なのだろうと考えていた。
 ただ一度だけ、いつもクリニックには一緒に通った紗英子が一人で受診したことがあった。それは有喜菜も紗英子から話を聞いて知っている。恐らく、その日に直輝が一緒だったのではと見当はついた。体外受精に非配偶者、つまり夫以外の精子を使うのなら別だが、夫のものを使うのであれば、夫の来院は必ず一回は必要だ。
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