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また桜は散り過ぎて
第15章 散ってもまた、桜は咲く

 桜が早くも咲き始めた3月の下旬。
最後の出勤も終え、引っ越しの荷物まとめもほぼ終わり、
アパートを引き払うまであと四日ほど。
あちらこちらに買い物やらぶらぶらお散歩やらと出かけた。

 喫茶・桜葉にも行かなければ。
この町を出る前日に、お気に入りの夕方の時間に、喫茶・桜葉を訪れることにした。
 ここに来たのは年が明けてから二度だけ。
そして二度目となった2月の終わり頃に、会社を辞め実家に戻る事を小西さんに報告した。

 客が私一人になった閉店間際、突然始めた私の報告に小西さんは
静かで長いため息をついた。
「そう・・ですか・・実家に。残念です。寂しいです。
 けど、お父さんがご心配なのはよくわかります。私も経験しましたから」
小西さんには、父の体調が思わしくなく、母を手伝うために実家に戻るのだと嘘を言った。
両親共に元気だが、実家に戻る理由としては一番無難で納得してもらえる。
それに・・本当の理由は言えないし・・
「小西さんに出会えたこと、この喫茶・桜葉に出会えたこと、私にとっては宝物です」
それ以上の事を言うと涙が止まらなくなりそうだから、今夜は話さずにおこう。
最後にもう一度、この店のコーヒーを味わった後で、
自分の気持ちを伝えようと決め、席を立った。
 ドアの前で立ち止ると、肩に温かさを感じた。
小西さんの手が、そっと私の肩に置かれていたのだ。
「アパートを引き払う前にもう一度、コーヒーを飲みに来てください」
そう言うと、肩の上の手に力が入った。
このまま抱きしめてほしい。
それが正直な願いだけど、そんなことしたら決心が鈍る。揺れ動く。
だから、それ以上の動きをしない小西さんがありがたく思えた。
 コロコロ・・ドアベルの音は、今まで聞いた中で一番、力なく物悲しいものだった。





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