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また桜は散り過ぎて
第15章 散ってもまた、桜は咲く
 ドアを開け外に出てから、バッグにしまっていた大切なものを取り出し、
今度は私が小西さんの胸の前に差し出した。
「これは?」
小さな封筒を手にして、手紙なのかと思っているらしい。
だがその場で中を確認することせず、ありがとう、と
そのままエプロンのポケットにしまった。
「じゃあこれで。どうぞお元気で」
「晴海さんもお元気で」
最後の最後に晴海と名前で呼んでもらえて、またもや涙が込み上げてきたけれど、
一生懸命押し戻して、満面の笑みだけを彼に向けた。

 目と鼻の先にあるアパート。大家さんちの門を抜けてから振り返ってみると、
まだ小西さんが見送ってくれていた。ありがとうの意味を込めて腕ごと大きく振ると、
小西さんも同じように大きく腕ごと振ってくれた。
 彼の姿が見えないところで、夜空を見上げて手を高く伸ばしてみる。
東京の、星がうっすらしかみえない夜空を、再び見ることはもうないのだろうか・・・




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