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Memory of Night 2
第29章 桃華

 そのまま、離れていく体温。抱きしめられている間も、桃華が席を立ち、離れていくのがわかっても、宵は何も言えなかった。三人一緒がいいとも、寂しいとも、離れて暮らそうとする理由さえ、何一つ聞けなかった。
 当時、聞いていれば。嫌だと駄々をこねてさえいれば、あの日の事故は回避できたのだろうか。今もまだ、3人で暮らせていたのだろうか。
 ……くだらない。それこそ、後の祭りだ。今悔やんだってどうしようもない話だった。

「ーー春加さんが母さんと親しかったなら、知らねーかなって思っただけです。離婚しようとしてた理由」

 そう思い立ったらいてもたってもいられず、店に来る時間を早めてでも彼女に聞いてみたくなってしまった。だが、冷静になって思う。今さらそれを知ったところで、どうなると言うのだろう。もう二人はこの世にいないのに。

「……もう、六時過ぎちゃいましたね。バイト入ります」

 宵は亮の顔を見ずに、席を立った。いろいろ、話しすぎてしまった気がする。
 どんなに幸せだった日々を思い返したところで、たどり着くのはいつも後味の悪い喪失感だけだった。さっさと気持ちを切り替えたくて、宵はそそくさと更衣室へと入っていった。
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