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Memory of Night 2
第5章 進路

「今日はわざわざお越しいただきありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。これからも厳しく指導よろしくお願いします」
「はい、もちろんです」
「厳しいのはやだ! 先生また明日ねー!」
「はーいまた明日」

 三年一組担任、倉木真美(くらぎまみ)は、教室のドアの前で深々と頭を下げ、自分の生徒とその母親を見送った。
 倉木は三十代前半のまだ若い女性教員だった。焦げ茶の長い髪はいつも後ろでアップにしている。薄めの化粧、黒渕の眼鏡、清楚な見た目と若いこともあり、男子生徒からは密かに人気があった。
 今週は三者面談。入れ替わり立ち替わり生徒と保護者が教室に来て、進路について話し合う。
 倉木は軽く伸びをして、机を三つ並べて作った面談席に戻った。
 次の生徒はまだ見えない。
 面談の時間が割りふられた一覧表で次の生徒が誰なのかを確認した倉木の顔が少し曇った。

「宵くん……か」

 大河宵。彼が二年の時から自分のクラスの受け持ちではあった。三年になっても多分自分が受け持つことになるだろうと予想していたが、案の定当たった。ひときわ目を惹く整った容姿は彼が入学した頃から話題にのぼっていたが、倉木が顔を曇らせたのは別の理由だった。
 彼の家庭事情は、いわゆる『わけあり』の部類に入るだろう。だからこそ、その事情をある程度把握している自分が進級後もそのまま担任なんだろうと予想していたのだが。
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