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Memory of Night 2
第32章 雪

「ねえ、君なんて名前? ーー僕の店で働いてみない?」

 初めて彼の声を聞いた時、浮かんだのは雪だった。柔らかいのにどことなく冷たい。ふわふわと耳に落ちてきた。
 季節は冬だった。連日冷え込み、週末は初雪の予報だった。そんな時期だからこそ、余計に雪を連想してしまったのかもしれない。

「あんた、誰?」
「申し遅れました。僕、こういうもの」

 うさんくさい笑顔と共に差し出された名刺。

「……ハプニング……バー?」
「うん。ちょっと大人のバーだけど。……君に一緒に働いてほしい」

 唐突だった。会って三秒。自分が彼をきちんと認識する前に、すでに勧誘されていた。

「ねえ、名前教えて」
「……教えるわけないだろ。お兄さん、怪しすぎるし」
「じゃあ、僕が決める」
「……決めるって何を?」
「君の名前」
「……はあ?」

 意味がわからず怪訝な顔で固まっていると、男はじっと見つめてきた。
 吟味するよう、真剣な眼差しで。不思議と目を逸らせなかった。
 オールバックの髪、人の心の内を見透かすような鋭い目付き。黒いスーツ。そんな外見に似合わない、柔らかな声色。
 その声に囚われたのが、全ての始まりだったように思う。

「『ハルカ』……ってどう?」

 男は笑った。

「どうも何も、一文字も合ってないけど」
「いいんだよ、別に。僕といるときに呼ぶ名前だから。君を見てると、春が浮かぶ。ーー一年で一番好きな季節なんだ」

 初めて会った時から、沼の中だったように思う。底に堕ちるまで、自力で這い上がれないことにさえ気付けなかっただけなのだ。
 ーーなんて滑稽な女なのか。
 あの日桃華が差しのべてくれた手は、沼から這い上がるための、最後のチャンスだったのかもしれない。
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