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Memory of Night 2
第7章 緊縛イベント

「いやあ、エロかったね」

 はっはっは、と呑気に笑う亮に、春加は軽いため息をついた。

「ま、客寄せになればなんでもいいですけどね。なんなら定期のイベにします?」
「ハルちゃんに任せるよ。ーーそんなことより、僕が気になってるのは宵くんのことなんだよね」
「彼が何か?」
「送り迎えまでして、わざわざ高校生の子を雇う意味ってある?」

 探るように動く、亮の目。

「あら、マスターも何年か前、十六歳の女の子雇ってなかったですっけ?」
「あれは一目惚れだったからさ。逃げられちゃったけど。ハルちゃんの場合違うんでしょ?」
「……別にあたしの好みじゃないですけど、店に出したら客寄せになると思ったんですよ。ただの直感てやつ?」

 春加は短くなった煙草を消した。灰皿に擦りつけ、席を立つ。

「ーー相変わらず下手だね、嘘つくの。どんなに奇抜な服やメイクで誤魔化しても、すぐわかるよ。君は一番わかりやすい」

 亮の声はたまに、悪い呪文のようだなと思う時がある。あまり抑揚のない話し方をするからだ。
ゆったりと、淡々と。深い場所まで響くのだ。
 耳を傾けたのが始まりだったように思う。この声に囚われたのが、道を踏み外したそもそもの元凶だった。
 春加は目を閉じた。きつく瞑った瞼の奥に、古びた映像が浮かぶ。
 勢いよく開いたドアの向こうにその人物は立っていた。
 息を切らし、睨むように自分に手を差し出したのだ。

 ーー戻ってこいっ!

 あそこで引き返していれば、自分の人生はもっと変わっていたのだろうか。

「ーー嫉妬、ですかね。一番近いのは」
「ほう。それは、宵くんに対して?」
「さあ、どうでしょう。……もう戻ります。お疲れ様でした、マスター」

 春加はそれだけ残し、スタッフルームをあとにする。

「嫉妬、ねえ」

 その感情の先になぜあの少年がいるのか。
 亮も一人呟き、煙草の火を消した。
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