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フレックスタイム
第1章 午前7時の女
取り敢えず、パジャマの下に大きいトランクスを履いてズボンを履くと、
キッチンに戻って、買っておいた鯛のお刺身を調味料と胡麻で和えて、
茗荷と大葉を細かく千切りにして、分葱も小口切りにした。
昆布と鰹節でお出汁を引いて、
社長が戻るのを待って、鯛茶漬けを出した。


「おお。凄いね。
料亭みたいだ」と言うので、

「別にお魚捌いたわけじゃないので、
たいしたこと、してないですよ」と言いながら、
焙じ茶を淹れた。

自分の分も淹れて、

「あの。
さっきは慌ててしまって、申し訳ありませんでした。
下着、ありがとうございます」と言うと、
吹き出しそうな顔をして、
「ホントに、佐藤さん、面白い」と、
さっき言われた言葉をもう一度言われた。


「面白い?
ノーパンの女が面白いんですか?
色っぽいの間違いじゃないですか?
日本語、おかしいですよ?」と言うと、
涙を溜めながら笑っている。


「なんか、傷つきますよ?」


「ごめんごめん。
胸とか露わに出して迫ってくるような、
香水臭い女と違って、
あんまり女性を感じないなと思ってさ」


「ノーブラなんですよ?
胸が露わよりワンランク上なんですけど?」


「ダメだ。
笑い死ぬ」とまで言うので、


「まあ、色気とか、カケラもないですけどね?」と、
溜息をつきながら言った。


「いやいや、そうじゃなくて、
なんて言うのかな?
知性を感じるのと、
なんかピュアな感じだからかな?
変に意識しなくて良いからって褒めてるんだけど」


「はい。
ありがとうございます」と言いながら、
お茶のおかわりの為にキッチンに立った。


社長が、食器を手にキッチンに入ってきて流しにそれを置くと、
身体を屈めて私を後ろから抱き締めてきた。

私は咄嗟に、ジタバタしながら、
脛の辺りを蹴ってしまった。


「ほら?
普通は、抱き締められたら、
顔を後ろに捻って、背伸びしてキスするもんなのに、
回した腕をかわしながら蹴りを入れるからな」と、
ちょっと痛そうな顔をしながら、社長は笑った。


「ごめんなさい。
条件反射です。
私、男の人、苦手で…」と下を向きながら頭を下げると、


「ああ。
揶揄ってごめん。
合意の上じゃないと、
そういうこと、しないから」と顎を掻きながら、

「もうちょっと、起きてられる?
少し話がしたいな」と言った。
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