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フレックスタイム
第2章 秘書室へ
「どれが四角いバッグだか、判らなくなったな?」と言いながら、
ベッドの上に置いた箱を開け始める。


「えっとね、斜め掛けのヤツとトートバッグは、
ケンの幼稚園に行く時に使いそうだと思ったから、
ケンの為に使って?
四角いバッグは、これだな。
これは、会社用」と言う。


…ここまでで、幾らになるのかも、想像つかない。


「財布と名刺入れは、お揃いになってる方が良いと思ったんだよね。
ピンクと青と紫のを持ってきてたから、
勝手に青にしたけど、ピンクが良かったかな?」


「いいえ。その中なら、青が良いです」


「良かった。斜め掛けバッグより濃い青だったけどね」と言いながら、小さい箱を開けると、美しい鮮やかな青の名刺入れと、Hの文字が煌めく長財布が出てきた。

「小さいクラッチバッグも同じ色。
ちょっと外に同行する時に使うでしょ?
このサイズなら。
シャネルのバッグの方が良ければ…」


「いいえ。こちらで充分です」と言うと、
社長は更に箱を開け出す。


「こっちは珍しくて手に入りにくいそうだから、
クローゼットに置いておいてね」と、
クロコダイルのバーキンを出す。
持ち手にはツイリーが巻かれていた。


「凄いですね。
左右対称で模様のキメまで美しいです」と溜息をついてしまう。


「使っても良いよ?
でも、会社に持って行くとさ、
お局がヒステリー起こして、
佐藤さん、虐めそうだな」とクスクス笑うので、

「とんでもありません。
こちらは、単に保管で置いているだけですから」と慌てて言った。


「ああ、もう一つあったんだった」と箱を開けると、
黒いバーキンが出てきた。
持ち手にツイリーが巻かれている。


「昨日、黒か紺があったらって言ったら、
他の店舗から取り寄せてくれたって。
これは仕事用に使えるでしょ?」


「えっ?
だから、バーキンまでなんて、お支払い、とてもすぐに出来ませんから…」と言うと、

「じゃあ、俺からレンタルってことで良いかな?
こっちを使う日は、
レンタル料で、ほっぺにキスして?」と笑う。


「こちらも、保管はさせていただきますね」と言って、
溜息をついた。


「秘書全員にこうやってエルメスを買ってるんですか?」

「まさか!
佐藤さんだけだよ?」



なんなの?
このオレンジの箱の数!

目眩がしてしまった。


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