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フレックスタイム
第4章 孤高の女
翌日、歩いて渋谷の百貨店に行った。

カルティエに入るので、
自分の時計か何か見るのかと思ったら、
「悪いけど、虫除けにリング、買わせてくれる?
もうさ。
取引先とかも、百合を狙ってるヤツ、
たくさん居るから、
指輪、しといて貰うからね?」と言うと、

「どれでも良いから左手の薬指に嵌る指輪、
選んで?」と言う。

「百合の時計、カルティエだったから、
ここにしたよ?」と笑う。

「どれもお高そうで、
選べません」と言うと、

「虫除けだから、
結婚指輪みたいなシンプルなヤツが良いんじゃない?
あ、これは?」と、真っ赤なルビーが一粒ついたリングを指差した。
爪でセッティングされてないから、
引っ掛かることもなさそうだ。

「手が真っ白だから、
紅い石、似合うかなと思ってさ。
地金の色、どれが良いかな?」と言いながら、
スタッフさんに3色出して貰う。

「時計がシルバーっぽいから、
プラチナで良いかな?
プラチナにするなら、
青い石でも良いかもな?
紅いのなら、柔らかいゴールドも良いな。
どっちが良い?」と両方つけさせる。


私が選べずに居ると、
「ケンはどっちが似合ってると思う?」と訊いた。


うっ。ズルい。
ズル過ぎる。


「んー。
女の子は赤でしょ?
でも、リリィは両方可愛いと思うよ」と、
天使のような顔で笑う。


結果、選べない私を無視して、
社長は両方買ってしまった。


「服に合わせれば良いじゃん」と、
また、訳の分からないことを言われた。


「今日は紺のワンピースだから、
青いのだな?
つけていきたいから」と言うと、
スタッフさんがトレイに載せて社長に渡す。


社長はふざけて、
跪いて私の左手の薬指にリングを嵌めてくれた。

私は耳まで顔を紅くさせてしまった。


その後、新宿に移動して、特急券を先に購入してから、
手土産の和菓子を買って、
特急に乗ってお母様の処に向かった。

特別な車両で、
しかも先頭車両で見晴らしが良かったので、
ケンがとても嬉しそうだった。
私も思わず、ワクワクしてしまって、
社長に笑われてしまった。

身を乗り出して外を観ている処を、
携帯で撮って、
「うん。
良い笑顔が撮れた」と社長が笑って言った。
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