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フレックスタイム
第5章 辛い過去
「一番酷いことをされたのは…
子供が3歳になってから、ホテルのプールに連れて行かれた時、
わざと夫が子供をプールに突き落としたの。
私、泳げないから足がすくんでしまって…
声も出せないほど震えてしまったの。
そしたら、私のことまで突き落としたの。
スローモーションみたいにゆっくり落ちていきながら夫のことを見たら、
物凄く冷たい目で私を見てた。
そして、笑ったの。
私、溺れてそのまま死んでしまうと思った。
息子だけでも助けなくちゃと思ったけど、
もがくだけで、どんどん身体が沈んでいって、
水も飲んでしまって…。
夫はその後、息子だけ助けて、
私はプールの監視員に助けられたんだけど、
その時のこと、裁判でこう言われたの。
私は、溺れる息子を助けず、
若いプールの監視員と浮気をしていたって」

「なんだよ、それ?」

「何がなんだか判らないし、
私の両親や祖父母も色々なことに対して激怒してたんだけど…
一番辛かったのが、
小さい息子に、
母親から酷い虐待を受けてたってことを調停で話をさせるの。
後から思うと…
言わされてたの。
でも私、それを聞くのが辛すぎて…。
調停を止めようと思ったの。
本当に止めておけば良かった」

話をしながらも、私は震えて、呼吸が苦しくなってしまった。


「大丈夫?
もう、話すの、やめようか」と、抱き締めて、
額にキスをしてくれる。


私は首を振って、
最後まで話をする。


「弁護士さん達が証言を集めてくれると、
夫の主張が不自然で、虚偽ばかりだということが明らかになっていってね。
息子だけで、調査官の方が話を聞いたら、
夫に殴られたり、ライターの火で炙られたりして、
無理矢理、私のことを悪く言わされていることも判ったの。
外から見えない処に、たくさん、虐待された傷痕があったそうよ。
『ママの処に行きたい』って泣いてたと言われたから、
改めて親権を取らなきゃって思って…
裁判所の調査官や調停委員、裁判官の心証も、
私に有利になっていて、
まもなくっていうことになって…
夫の心を追い詰めてしまった…」


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