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フレックスタイム
第5章 辛い過去
ソファで意識を取り戻した時、
社長は泣きながら私を抱き締めてくれていた。


「私…」

「百合は悪くないよ。
子供の生命を奪う権利は、
どんな理由があっても親にだってないよ。
追い詰めたって?
そんなことはない。
子供を夫に残していったとしても、
利己的なヤツだから、
結果、同じようなことをしたと思うよ。
なんでそんな狂気じみたことをしたのか、
判らないし、判りたくもないけど、
百合のその哀しみを少しでも癒やすことが出来るなら、
ずっと一緒に居たいと思うよ。
頼りないかもしれないけど」

私の溢れる涙を拭いながら、
社長もボロボロ泣いている。

「思い出したよ。
数年前の医者の無理心中事件。
あれか?」

私は頷いた。

「あの後、マスコミとかに追い掛けられて…。
旧姓に戻したけど、実家にも帰れないし、
電車とかに乗るのも怖くて…
歩いて通える処で、
私のことを誰も知らない人の中で働こうと思ったの。
息子の写真とかもね、
何一つ渡さないって、
全部燃やされてたのよ?
実家にあった、本当に産まれたばかりの写真が一枚しか残ってなかった。
実家と行き来もさせて貰えなかったから、
本当に何も残ってなくてね。
心の中に生きてるだけ」


「なんて言っていいか、判らない。
本当に辛かったね。
俺なんて、
それ考えたら大したことないな。
ケンは生きてるし、
血は繋がってなくても、可愛いし」と、
少し呑気な顔で笑った。

「うん。
生きてるだけで、
幸せよ?
だから…
こんな私で良かったら、
一緒に居てください」

そう言って、
社長にしがみついて、また泣いた。

「こっちからお願いするよ。
俺と一緒に居て?
いや違うな。
俺とケンと一緒に…
家族になって?
お願いだ」

私は、頷いて、
社長の首に腕を回して、
永遠の時間のような、
長いキスをした。


「この流れでセックスしたら…
酷い男だよな?」

「そんなこと、言いませんけど…
ここでするんですか?」

「そうだよね?
リビングのソファでとか、
初めての夜なのに、
ロマンティックじゃないよね?
判った!
最高の夜を演出するから、
今日のところは…
いつものベッドで、抱き合って寝ようか?」と言うと、
手を引いて、階段を登った。

そして、バスローブを脱いで、
生まれたままの姿でキスをしたまま、
いつのまにか眠っていた。
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