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そぶりをやめて
第14章 入籍13日前
「ということで。...してみませんか、田中汐里さん」

飛沫防止パネルを挟んで、しばし見つめ合う。

たなっちの、くりっとして少し目尻があがった目が、ぱちぱちと瞬きをしている。

さぁ、どう出るか。

「...え?だから、何を?」
「だから、結婚を」

同じようにテーブルに手をついて身を乗り出してみる。

そう、これはビジネスの提案なのだ。割り切っていこう。

「こないだのZoom同窓会で、“結婚したい!”って叫んでたじゃん?」
「...ああ、うん。まぁ、結婚は、...したいけど」

乗り出していた身を戻して、ソファに座り直している。

「俺もしたいんだよね。結婚」
「ああ。うん。...そうなんだ」

「で、俺ら結婚しよかってハナシになったじゃん」

周りの人間にもはやし立てられて、『結婚する〜?』『しちゃ〜う??』みたいになった。
あの時は冗談だったけど、数日、いや数ヶ月経って気が変わった。

本当にたなっちと結婚するのも、ありなのでは?と。

「いやいやいや。冗談じゃん。ノリじゃん、あんなの〜」
「え。俺は本気だったけど」
「うっそ...」

うん。嘘なんだよ。でも、ここはこう言わないと。

まだまだコロナは治まりそうにない。
マッチングアプリにしろ、コンパ、紹介、お見合い、などなど。
出会いをどの手段にするにしても、このコロナ禍に密を避けて色んな人と出会って。
これまた密を避けてデートを重ねて、深く仲良くなってー。
そこから何ヶ月かかけて見きわめて、家族に紹介して、結婚する。

すごくハードルが高い。


たなっちなら、昔からよく知ってる。


「...だからって」
「何がダメなの?」

ここまで来たら、たたみかけて、なんとしてもOKを貰う。

バンコク支店への転勤の話、ほぼ桧山で決まりらしい。
内示は出たようだ。
だけど、安心は出来ない。

移動関連をストップして様子見している他の海外支店も、状況が落ち着いたら動き出すかもしれないし。

上司に、『近々、結婚するかもです』と言ってしまった手前もある。

「俺、一人暮らし歴が長いからさ。家事は何でもするよ」

掃除洗濯は得意、料理も朝ごはんは作る。
晩御飯は、疲れて作れなくて、いつも外食か弁当かだけど。
子どもも好きだし。
親との関係も良好だ。
まぁちょっと太り気味だけど、大きな病気も無い。
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