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そぶりをやめて
第22章 3815日
薄れゆく意識の中で、佳祐も力尽きたのを感じる。

汗ばんだ体で抱き合って顔を寄せ、耳元で何やら佳祐が言っているようなー。



それからどのくらい経ったのか。

また佳祐に起こされる。

「汐里。しおーりっ」

「...うーん」

「ほら。水」

水??

「グレープフルーツも切ってきたし」

はい??グレープフルーツ??

何やらお盆らしきものに、ペットボトルの水と綺麗にカットされたグレープフルーツが見える。

なんでまた?

「食べたいって言ったじゃん」

...覚えてない。

幾つかある枕を佳祐が寄せて、汐里が体を起こせやすいように整えている。

なんとかそこへ、重たい体を引き上げて、少しななめに上体を起こす。

皮を剥いて、薄皮を避けるようにカットされたグレープフルーツがキラキラ光ってる。


あんなに長男の妊娠にはしばらく気づかないほどだったのに、次男の時は悪阻が激しくて。
唯一食べたくなるグレープフルーツを、佳祐がカットしてくれてた。
最初は、ぎこちないカットだったのだが、汐里が文句を言いまくり、徐々に上達していった。
悪阻が終わる頃では、お店のケーキの上に乗っていてもおかしくない程までカット技術が上達した。

「懐かしい...」
「だろ」

フォークで突き刺して、口に運ぶ。

よく冷えていて、グレープフルーツの香りが口いっぱいに広がる。
ほのかに独特の苦味もして、それがまたいい。

確かに喉が、体が水分を欲していた。
指の先まで瑞々しさが行き渡るようだ。

「美味しい...」

味わって食べていると、佳祐がすぐ後ろにやってきて、汐里の体を抱きしめる。

「ひゃっ」「俺にもちょーだい」

フォークが1つな上に、口を大きく開けて待っていて、自分で食べる気はなさそうだ。
しぶしぶフォークを動かしていると、半ば強引に手を掴まれて、口に運ばされた。

「...ちょっ」「んむ、うー。よく冷えてる」

食べながら話すから、汐里の腕の上に果汁が零れる。

「っもー。ちょっと!」「ごめんごめん」

じゃれ合うように近づいた佳祐の舌が、汐里の肌の上の果汁を音を立てて舐める。

指が絡め取られ、そのまま佳祐の舌が肌の上を移動する。

「っ、ちょ。まだ食べて」
「ん、じゃ、置こ」

フォークがするりと取られ、お盆ごと枕元の棚に押しやられた。

「え、ちょっと。嘘でしょ」
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