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蒼い月光
第5章 くのいち修行

疾風の手ほどきは過酷さを極めた。

5年にも及ぶ訓練で
朱理は「くノ一」としては
抜群の身体能力を身につけた。

懐(ふところ)に石を入れて
体を浮かないようにして水中を歩く術では、
最初は15秒にも満たなかったが
やがて10分以上も無呼吸で
水中を歩けるようになっていた。

跳躍も、いつの間にか
疾風の背丈を楽々と飛び越えた。

剣の手練にしても、
疾風の足の悪い点を差し引いても
互角に打ち合うまでになった。



「見事なものよ…朱理、免許皆伝である」

剣の手練で初めて疾風を打ちのめしたあと、
父親の口から思っても見ない言葉をかけられた。

いよいよ、くノ一として
独り立ちを始める時がきたのだった。


父娘は訓練場から自宅に戻り、
母親のウズメにその事を告げた。

告げられたウズメは複雑な表情をした。

5年前の父娘の約束の言葉が
頭の中に渦巻いていた…

「そ、それでは私は野宿いたします故、
親子で、ごゆっくりと
初枕(はつまくら)をなさいませ…」

なるべく笑顔で話したつもりであったが、
口元が引きつり語尾が震えた。

「ウズメ…」

疾風には妻の胸中が痛いほどわかった。

妻は、あの夜の方便をいっときも忘れずに
胸に仕舞っていたのだろう。

疾風は朱理に向き直って方便を詫びようとした。

だが、それよりも先に朱理が言葉を発した。

「母様…朱理は本日、
師匠である父様から免許皆伝をいただきました。 その時点で朱理は一人前のくノ一でございます。 忍びには忍びとしての掟がございます。
掟に従い、朱理は首領に初枕をしていただきとうございます」



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