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蒼い月光
第9章 千代の初枕(初夜)

「殿様の、おな~り~」

侍女の可愛い声が千代の思考を止めた。


その直後に大股でどしどしと
床を踏み鳴らしながら剣山が寝間にやってきた。

寝間の脇に控えていた侍女の八重が
剣山の歩く速度を読み取り、
タイミングよく蚊帳の幕をスルスルと巻き上げた。


役目を終えると、
八重は静かに白いついたての裏へ引き下がった。


「千代‥‥」

剣山が千代の正面に胡座(あぐら)をかいて座り、女の名を読んだ。

その声は老中に指示を与える厳しい声とは裏腹に、甘く優しい声だった。

「よくぞ、わが国に嫁いでまいられた。
長旅ゆえ疲れたであろう?」

労(いたわ)るように、
そっと千代の肩に手を添えた。

「ふつつか者でございますが、
よろしくお願いいたします」

布団の上で三つ指をついて頭を下げた。

「そう堅くならずともよい、
今宵より儂(わし)らは夫婦なのだ。
お互いに心を通い合わせ、
子を作り、 国を栄えさせ、今生を謳歌(おうか)しようではないか」

そう言って剣山は千代の唇を求めてきた。

寝間に来る前に
薄荷(はっか)の葉を噛んできたのであろう、
剣山との口づけは清涼感があり、
千代の体をとろけさせた。

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