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Kiss Again and Again
第16章 最後の扉
寺下樹、という人間が この世の中にいないようなフリをして 何ヶ月も 過ごしてきた。
自分には この生活しか大事なものはないのだというフリをして 何百時間も日常だけを過ごしてきた。
どれだけ逢わなかったのか どれだけ肌を合わせなかったのか わからない。 そんなことは 考えないようにしてきたから。
それなのに 樹さんが 前に座り 見つめられている、というだけで 空白は消え去り 性愛の時に流れ込む。
肉体という存在が 求め続けてきたものを受け入れることを準備し 溶け始める。
ワイングラスを傾けるその時でも わたしから目を離さない。
茶色い瞳に魅入られながら 言葉以外で 心を語り合う。
どうして逢わずにいられたのか 不思議に思いながら。