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Kiss Again and Again
第19章 恋愛事情
「エンジンかけてみて」
「ほんとうに ボタンを押すだけなの?」
「試して」
「おおっ・・・ かかったぁ」
「あゆは 可愛いなぁ」
それは 何度も聞いた言葉だ。 ほとんど海の口癖だった。
「動かす時は 同じ? アクセルを踏めばいいの?」
「そうだね。 同じで申し訳ないね。 でも ご希望であれば ハンドルでもできるよ」
「いえ。 ご希望しないので。 21世紀流でやらせていただきます」
「20世紀から ハンドルにアクセル付いている車は あったよ」
「やっ 動くよ! いい?」
「いいよ。 曲がる時は ハンドルをきって」
「それは同じなのね。 よかった」
おどおど どきどきしながら クリーニング屋さんに着いた。
「小さな成功ですが 着きました」
「あゆ 上手じゃん」
「ふたりとも 無事。 よかったぁ」
クリーニング屋さんから戻ってきた海は
「どこへ行きますか?」 朗らかに言う。
いつかどこかで見たことのある海になっていた。
頭の中で 警報が鳴った。 いつもこのアラームを無視するから まずいことが起こるのだ。 わかっているけれど 久しぶりに 休日らしい休日を過ごしていた。 これらをなかったことにしてしまうのは 惜しくなっていた。
「しばらく真っ直ぐ行くと 大きな通りに出るよ。 4車線道路とか 運転したことある? やってみる?」
この人は わたしにすべてを教え 導いた男。
やっぱり やめよう。
「あゆ? もう 運転に飽きたの? そろそろ車を移動させなきゃ」
海には わたしの心の中が 透けて見えるのだろうか。
「・・・ お昼を一緒に食べるまで こうしていよう」