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Kiss Again and Again
第21章 はじまりは こんな風に
海の脱いだものを洗濯機で回している間 スマホで おうどんの作り方を調べた。
「日本人パティシエ」
また思い出してしまう。 無理やり「樹さん」というページを閉じたら 次のページは「海」という不実な男のページだったなんて 笑えない。
『反省文』について 海は何も言わない。 わたしも 何も言わない。 何も始めるつもりはないから。
「あゆぅ 何しているの?」
「お昼ご飯は おうどんにしようかと思って」
「僕のもある?」
風邪ひきさんのためのおうどんでしょう?
「食欲はでてきましたか」
「お腹は空いていないよ。 せっかくのお休みなんだから ゆっくりすれば?」
買って来たスウェットを着た上から 毛布をはおり ラブチェアに座った海が言う。 見ると 熱冷まシートがはがれかけている。 熱のせいで潤んでいる目とくしゃっとした髪の毛が 不完成品の海を幼くみせている。 幼くて善良。
買って来た新しいシートを貼りなおそうと手を伸ばすと 海はわたしの手首を掴んだ。
「だから だめなんだって」
「えっ? 何が? もう とれかかっているから 新しいのを貼るだけよ」
「うん。 わかっているけど」
富士山に行ったときも こんな風に差し出した手を拒んだ。 何かが だめなんだ。
「海は おうどん 作ったことがありますか?」
「ない・・・かな」
「あらぁ ちょっとあてにしておりました」
「あゆは 作ったことないの?」
「あるけど・・・ ちゃんとできるかどうか・・・」
あのときは ちゃんと指導してくれる人がいたから。