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女優
第10章 若女将登場&筆下ろし

庭に出て夜風に当たってみると
都会に比べて気温が低いのだろう。
肌に当たる風がひんやりとして気持ちよかった。


「なにやら若女将と
真剣なお話をされていたんですね」

不意に背後から話しかけられて
愛子は飛び上がるほど驚いた。

「ああ…ごめんごめん…
別に驚かせるつもりはなかったんだけど」

声の主はカメラマンの近藤さんだった。

「あら、近藤さん…お昼は撮影ご苦労様でした」

そう労ってペコリと頭を下げた。

「ほんと大変だったよ。
予定にないシーンが満載で」

そう言って近藤は、はにかんだように笑った。

「カメラを担いでいたから
いい思いができなくて残念だったわね」

「いえ、いいんです。
俺みたいな粗チン野郎が
いい思いしようなんて考えちゃいけませんから」

「あら?あなたが自分で言うよりも
お粗末じゃなかったわよ」

「ほんとに?
いやあ~プロのAV女優さんに
そう言ってもらえると自信になるなあ
あ、でも、俺は女性経験がないから
手コキとかされたらあっという間に
射精しちまうし、
それはそれで笑いものになりますね」

「え?近藤さんって童貞なの?」

「お恥ずかしい…」


年の頃はどう見ても30代後半だというのに、
まだ童貞だなんて…

「風俗で筆おろしをしようにも、
カメラマンっていうのは名が売れるまでは
ほんとギャラも安くて…
おまけに機材の進歩も著しいから
貯金はほとんどカメラ代に消えてしまうんです」

「あの…失礼ですけど
彼女とかお付き合いしている方は?」

「俺、シャイだから
女性に声をかけるのが苦手で…」

「あら?私だって一応女なんですけどぉ~
シャイという割に気さくに
声をかけてくださったんじゃないですか?」

「あれ?ほんとだ~
いや、なんだか君って話しやすいというか…」

それは愛子にしてみてもそうだった。

波長が合うというのか、
近藤という男相手になら
素のままで気取らずに
おしゃべりをすることができた。



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