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キャンバスの華
第5章 華の嫉妬

「あら、次郎ちゃん、おはよ」

次郎に気づくと華は明るく声をかけてきた。


『次郎さん』と呼ばれた昨夜は
幻聴だったのだろうか。

狐につままれたようにポカンとして立ってると


「早く用意しなさいな。
今日も風呂屋さんに壁画を書きに行くんだからね」
と、まるで昨夜になにごともなかったかのように いつもの朝が次郎を待ち受けていた。


慌ただしく支度を済ませると
二人は昨日の風呂屋へ出向いた。

今日は女湯の壁に
富士の絵を書き上げなければならないのだ。

いつものように次郎は
華の後ろを三歩下がって歩いた。


「次郎ちゃん・・・」

町内を出たところで華が次郎に呼びかけた。

「はい」

なんだろうと思っていると
華がスっと右手を差し出した。

『え?・・・・』

「早くぅ~」

女学生のように右手を差し出したまま
その場でピョンピョン飛び跳ねた。


こ、これは・・・・

手を繋ごうという合図なのだと悟った。

次郎が左手を差し出し
華の右手をしっかりと握ると
「うふっ」と笑顔を見せて
次郎に身体を寄せて甘えてきた。

「せ、先生・・・あの・・・・」

この意図はなんなのだ?・・・

次郎が戸惑っていると華が語り始めた。

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