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胡蝶の夢
第9章  華 





圭は完璧なのだと思っていた。


博愛も笑顔も包容も上位にある者の余裕だと、そう思っていた。


けれど違う。


圭はとても繊細な人だ。


美しいと勘違いしてしまうくらいの危うい脆さを持った人だ。


笑顔は弱さを隠すための仮面。


もともと病弱だった圭は自分の余命を知ったのだ。


俺がココに連れて来られて確信したのだろう。


自分の『代り』が連れて来られた事を。


忘れられるのが怖いと圭は言った。


折り重なって降り積もっていく記憶の中に埋もれるのが何よりも怖いと言っていた。



「もしも最期に我が儘が許されるなら……」



昨日圭が口にした言葉を、俺は自分に言い聞かせる様に呟く。



「潔く美しく散る『桜』よりも、どんなに不様だろうと、散って後も未練がましく地に香り立つ『梅』の花の様に散りたい……」



俺がうわごとの様になぞらった言葉を聞いて、圭がコクと頷いた。


美しい記憶で無くともかまわない。


どんなに悲惨な記憶でも、誰かの記憶に鮮明に残る事を圭は選んだ。


少なくとも今日のこの日は俺の記憶の中にいつまでも香るだろう。


ただ一人『兄』と呼べるはずの者が死んでいく様を、いつまでも悪夢の様に思い返すだろう。







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