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胡蝶の夢
第3章  深淵 



黒崎直弥。


彼の言葉が僕の感情を逆撫でする。


僕の中でもう一人の醜い自分がぬらぬらと燻りだす。


僕がここから逃げてスケープゴートを降りたら…。


代わりに本来の生贄である妹が連れ出されるだろうか?


怒ったこの変態君主に御家取り潰しに合うだろうか?


妹?


家?


どうだっていい。


不要物の様に自分を吐き捨てた家など、絶えてしまえばいい。


僕を不幸にしたすべてなど、すべてすべて不幸になってしまえ…。


そう思って首を振る。


天使と悪魔の囁きとはよく言ったものだ。


呪いの様な言葉を吐き出す醜い悪魔の様な自分と、崇高な精神をひけらかす偽善者の自分が浮かんでは沈んでいく。


偽善者は切々と自己犠牲をすすめ、悪魔は自己愛のためにすべてを呪えと言う。



「イヤだ…」



どちらもイヤだ…。





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