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祈り姫 ~甘い香りに惹かれて~
第10章  ~暗闇の誘惑~


 噴水の水は色とりどりの魔石光に照らされ、群像彫刻の天使たちの回りを舞う妖精のように水飛沫をあげている。

 その噴水を背にし、流れる水音は目の前の華やかさとは別空間に思わせるほど耳心地がよく、サクナは静かにそれに耳を傾けていた。



「サクナ。本当の事言わなくて悪かったな。お前が不安になってるのわかってたけど…………」

 不意に話始めたケイルにサクナは視線を向け、こちらを見る少し哀愁を漂わせる兄にフルフルと首を横に振り表情を和らげ応えた。


 あの時。兄がどうしても何も言ってくれなかったのかは、わかったことだから。


「今思えば兄様はもしその事実が本当なら、ルカのこと反対するもんね。その時は気づけなかったけど」

 他人とあまり関わらない兄だが、長年務めている事もあるのだろうがルカを信頼し忠実を誓っているのだとわかる。

 言いたくても言えなかった。


 補佐官の前で真実を言うワケにはいかなかったのだろう。

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