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重ねて高く積み上げて
第1章 プロローグ

そんなこともあったなー、と調理場に立つユウくんの真っ白な背中を見ながら、私は今日もホットケーキを頬張る。
あの頃は薄かった背中も、いつの間にか大きく膨れ上がっていて、二の腕や腰はあの時のひょろひょろした面影が一切見当たらない。縦にも横にも大きくなったユウくんは、まるでクマみたいだ。
「ハナちゃん、ワインとホットケーキってさすがにどうかと思うよ」
カウンターを越えて出されたのは、コロッケだった。山盛りのキャベツが添えられていて、どっちがメインなのかわからない。
へらへらした笑顔は変わらないけれど、洋食屋で毎日フライパンを振っている腕は筋肉で筋張っていて、味見をたくさんしたのか、顔にはふっくらとした二重アゴ。決してイケメンと呼ばれる類ではないけれど、大きな鼻の存在感で、多少整っているように見える。
35歳の男性らしくなったなぁ。
「コロッケとホットケーキもどうなの?」
はちみつがついたままのフォークを、遠慮なくコロッケに突き刺す。ざくり、といい音がした。
ユウくんは「あ、それもそうか。何か、ホットケーキに合うもの作ろうか?」と、へらへら笑うけれど、ホットケーキに合うものってなんだろう。ナイフで俵型のコロッケを切ると、とろりと白いクリームが衣からたれてくる。カニクリームコロッケだ。
「ううん、多分このクリームがホットケーキに合う気がする」
甘いものとしょっぱいものを、同時に食べる贅沢を私は知っている。頬張る私を、変わらず眺めたあと、ハッと思い出したようにカウンターから出て、のれんを店の中へとしまい始めた。
赤い背景に白いゴシック体で『洋食屋 はなぞめ』と書かれている。どんな意味があるのかは知らない。 自動ドアのすぐ側にのれんを立てかけ、流れるようにその上にある自動ドアを切るスイッチを押して、エプロンのポケットから鍵を取りだし、店じまい。
何年も同じ作業をしてきただけに、よく体に馴染んだ動きをしている。
閉店間際に来る客なんて、迷惑極まりないだろうに、ユウくんはあの笑顔でいつも迎えてくれる。私が来る頃には、人はもういなくなっていて、ユウくんもお店も貸し切り状態のことが多い。
ゆっくりお話出来るから。そんな理由で遅く来てるなんて知ったら、どんな顔をするんだろう。揚げたてコロッケの衣が、口の中でざくざくと音を立てる。
あの頃は薄かった背中も、いつの間にか大きく膨れ上がっていて、二の腕や腰はあの時のひょろひょろした面影が一切見当たらない。縦にも横にも大きくなったユウくんは、まるでクマみたいだ。
「ハナちゃん、ワインとホットケーキってさすがにどうかと思うよ」
カウンターを越えて出されたのは、コロッケだった。山盛りのキャベツが添えられていて、どっちがメインなのかわからない。
へらへらした笑顔は変わらないけれど、洋食屋で毎日フライパンを振っている腕は筋肉で筋張っていて、味見をたくさんしたのか、顔にはふっくらとした二重アゴ。決してイケメンと呼ばれる類ではないけれど、大きな鼻の存在感で、多少整っているように見える。
35歳の男性らしくなったなぁ。
「コロッケとホットケーキもどうなの?」
はちみつがついたままのフォークを、遠慮なくコロッケに突き刺す。ざくり、といい音がした。
ユウくんは「あ、それもそうか。何か、ホットケーキに合うもの作ろうか?」と、へらへら笑うけれど、ホットケーキに合うものってなんだろう。ナイフで俵型のコロッケを切ると、とろりと白いクリームが衣からたれてくる。カニクリームコロッケだ。
「ううん、多分このクリームがホットケーキに合う気がする」
甘いものとしょっぱいものを、同時に食べる贅沢を私は知っている。頬張る私を、変わらず眺めたあと、ハッと思い出したようにカウンターから出て、のれんを店の中へとしまい始めた。
赤い背景に白いゴシック体で『洋食屋 はなぞめ』と書かれている。どんな意味があるのかは知らない。 自動ドアのすぐ側にのれんを立てかけ、流れるようにその上にある自動ドアを切るスイッチを押して、エプロンのポケットから鍵を取りだし、店じまい。
何年も同じ作業をしてきただけに、よく体に馴染んだ動きをしている。
閉店間際に来る客なんて、迷惑極まりないだろうに、ユウくんはあの笑顔でいつも迎えてくれる。私が来る頃には、人はもういなくなっていて、ユウくんもお店も貸し切り状態のことが多い。
ゆっくりお話出来るから。そんな理由で遅く来てるなんて知ったら、どんな顔をするんだろう。揚げたてコロッケの衣が、口の中でざくざくと音を立てる。

