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重ねて高く積み上げて
第3章 たゆたう

もういっそ、押し倒してしまうしかないのでは。そこまでしないと、この関係は進みもしない、壊れもしない気がする。出来ることならば壊れたくはないけれど、いつまでも兄妹ごっこで遊んでいるよりは数百倍マシだ。
頑張れ……頑張れ私!
手のひらに人という字を3回目書いて飲み込んだ。洗面台の鏡に映る私に、今日も可愛い自信を持って、と暗示をかける。化粧をしていない顔はずいぶん幼く見える。化粧直しをしないから、パウダーすら持ち合わせていない。
すっぴんであることが悔やまれるけれど、このチャンスを逃せば次はないかもしれない。使い終わったドライヤーを元の場所に戻して、戦場に赴く女騎士の気分で扉を開いた。
ベッドの上に寝転んで、携帯をいじりながらあくびをしていたユウくんの名前を力強く呼ぶ。
「ん?」
へらへらした笑顔が可愛くて、気が抜けそうになりかけた所を、慌てて再度引き締める。浴衣なのも気にせず、ずんずんと大きく足を進め、寝転がっているユウくんを見下ろす。
色の抜けた金色の髪の毛が、オレンジ色に輝いている。一重のわりには大きく見える目に、私の影が見える。見てわかるくらいに乾燥した肌には毛穴が見えるけれど、吹き出物やシミは一切なく、だからこそ開いた毛穴が目立つ。ほうれい線や目尻のシワが、年月を感じさせる。
ただのおっさんを見下ろしているだけなのに、どうしてこんなに心臓が高鳴るのだろう。
「ハナちゃん?」
状態を起こし、私を心配そうに見上げる顔。それを抱きしめて、薄い唇にキスを落としたいのに、さっきまでの勢いはどこへやら、私の体はまた石像のように固まってしまった。
少し動けば触れられる距離にいるのに、ユウくんは私に触れようとしてくれない。ほんの数センチの距離がどこまでも遠くて、寂しくて、悲しくて、気がついたら頬を伝うものがあった。
「あれ……? ご、ごめん、なんでだろう」
ユウくんが大きく目を開く。
拭っても拭っても、次から次へと溢れてきて止まらない。化粧しなくて良かった、と頭の中の冷静な自分が言う。その私がユウくんの驚いた顔を見て、早く泣きやまなくちゃ、と言うけれど少しも止まらないのだ。
遠い、寂しい、悲しい。触れて欲しい、触れたい。意識されたい。女の子として見て欲しい。彼女にして、私を好きになって。そんな思いがごちゃごちゃして、気持ちの整理すらつかない。
頑張れ……頑張れ私!
手のひらに人という字を3回目書いて飲み込んだ。洗面台の鏡に映る私に、今日も可愛い自信を持って、と暗示をかける。化粧をしていない顔はずいぶん幼く見える。化粧直しをしないから、パウダーすら持ち合わせていない。
すっぴんであることが悔やまれるけれど、このチャンスを逃せば次はないかもしれない。使い終わったドライヤーを元の場所に戻して、戦場に赴く女騎士の気分で扉を開いた。
ベッドの上に寝転んで、携帯をいじりながらあくびをしていたユウくんの名前を力強く呼ぶ。
「ん?」
へらへらした笑顔が可愛くて、気が抜けそうになりかけた所を、慌てて再度引き締める。浴衣なのも気にせず、ずんずんと大きく足を進め、寝転がっているユウくんを見下ろす。
色の抜けた金色の髪の毛が、オレンジ色に輝いている。一重のわりには大きく見える目に、私の影が見える。見てわかるくらいに乾燥した肌には毛穴が見えるけれど、吹き出物やシミは一切なく、だからこそ開いた毛穴が目立つ。ほうれい線や目尻のシワが、年月を感じさせる。
ただのおっさんを見下ろしているだけなのに、どうしてこんなに心臓が高鳴るのだろう。
「ハナちゃん?」
状態を起こし、私を心配そうに見上げる顔。それを抱きしめて、薄い唇にキスを落としたいのに、さっきまでの勢いはどこへやら、私の体はまた石像のように固まってしまった。
少し動けば触れられる距離にいるのに、ユウくんは私に触れようとしてくれない。ほんの数センチの距離がどこまでも遠くて、寂しくて、悲しくて、気がついたら頬を伝うものがあった。
「あれ……? ご、ごめん、なんでだろう」
ユウくんが大きく目を開く。
拭っても拭っても、次から次へと溢れてきて止まらない。化粧しなくて良かった、と頭の中の冷静な自分が言う。その私がユウくんの驚いた顔を見て、早く泣きやまなくちゃ、と言うけれど少しも止まらないのだ。
遠い、寂しい、悲しい。触れて欲しい、触れたい。意識されたい。女の子として見て欲しい。彼女にして、私を好きになって。そんな思いがごちゃごちゃして、気持ちの整理すらつかない。

