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Snowtime 溶けて、消える
第1章 ***
「あの…誰かとの待ち合わせですか? ここ、いつも人いないし。 待ち合わせ場所になりそうな目印もないし。それに雪だってこんなに…」

 浮わついた感情は無いと弁解しておきながらおもいっきり矛盾している質問に、彼女は避けることなくそうねぇとしばし考え込む。その上を見上げる仕草により、僅かに見えていた首筋がよりその範囲を広げ、僕はたちまちその白さに釘付けになる。

 これが一目惚れというものなのだろうか。もっと。衣服をひんむいてでもその素肌の端から端まで見まわしたいという、理性の欠片もない獣の欲に駆られる。きっと雪の、いや寒さのせいだ。こうも寒いと温もりが欲しくなるものだ。身も心も。

「いるわよ」

 彼女の唐突な返答に薄暗い感情から、一気に電灯ひとつの明るい世界に引き戻される。光を取り戻した視界には、海や空を思わせる程にクリアな黒目がこちらを真正面に捉えていた。ついさっきまでその顔を見たくて仕方なかったというのに、やましい考えがよぎっていた僕は急激に恥ずかしくなって思わず視線を反らす。

「えぇ…と…何がでしたっ、け?」

「何がって待ち人よ。ほら、すぐそこに」

 彼女の指が動くのと同時に、僕は反射的に立ち上がり辺りを見回す。もし一連のやり取りを彼氏にでも見られたら、ただでは済まないだろう。首を目一杯左右に動かし、僕の方を指す彼女の指を確認して、勢いよく後ろに振り替える。

 けれどいくら見渡してもこの狭い銀世界の中にいる役者は僕達二人だけであり、スポットライトが照らしているのも僕達だけだった。それでも彼女は僕の方を差し続け、僕は雪でまだら模様に揺れる暗黒を凝視する。それを遮ったのは彼女の静かな笑い声だった。

「あはは…冗談よ。ごめんなさいね、こんなに笑ってしまって。あなたってばあんまりにも面白いからつい。気を悪くしないで欲しいのだけれど」

 手で口元を押さえても隠しきれない笑顔で彼女は声を挙げて笑う。物静かなように見えて実は感情豊かな人なんだとわかり、雪だるまなんて言ってしまった自分を恥じる。私は人間だとだめ押しするかのように、彼女はまたくしゅんと可愛らしいくしゃみをして、体を震わすジェスチャーをする。
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