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Snowtime 溶けて、消える
第1章 ***
「寒い…ちょっと冷えちゃったみたい。どこか近場の暖まる所を知らないかしら?」

「この近くでですか? この辺住宅地だし、いくつかある小さな喫茶店もこの時間じゃ…後は…うち、とか…」

 ほんの少し前に言ったことと明らかに矛盾している上に、我ながら絶句するような誘いかけに僕も彼女も困惑して視線を落とす。確かにもっと一緒にいたいという気持ちに嘘はない。ないけどだからってこんな下手な伝え方しなくても…自分のセンスの無さに殴りたくなってくる。

「…心まで?」

 ふいにそんな声がポツリと聞こえ、「えっ?」と疑問を返す前に彼女がベンチから立ち上がる。長い時間座っていたのか、手で払い退ける肩に積もった雪がパラパラと落ちる。特徴的な赤いシルクハットにも雪が積もっていたが、それだけは脱ぐことなくそのままベンチから離れていく。

「どうしたの? ボーッとしちゃって。行かないの?」

「えっ…え? 行かないのって…どこに?」

「あなたの家よ。ほら、お誘い受けたんだから、早く連れてって。凍えちゃうわ」

 はにかんだ笑顔でそう言う彼女は呆気にとられる僕を置いて、すたすたと暗闇の舞台袖へと消えていく。グダグダなナンパだったけど了承ということでいいのかとか、待ち合わせはいいのかとか、そんな疑問を問う暇なんてないと本能的に察知した僕は舞台から飛び出て、姿は見えないけど彼女のシルエットと並んで歩きだす。

 誰もいない夜の公園に。
 雪が積もるアスファルトの上に。
 二人の足跡を刻み付けていく。



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