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嵐の夜に痕をつけられて
第3章 先輩と暗闇と雨 ★
「待って」


そのまま彼の方に振り向かされる。
思わず顔を上げて彼を見ると、眉間に深い皺を寄せていた。

え、なんで。
なんで相沢さんがそんなに怒ってるの?


「何があった?」

「い、言いたくありません。
 プライベートなことです」

「プライベートって? 田上と何かあったの?」

「っ……」


亮太の名前を出されて思わず言葉に詰まってしまった。名前を聞いただけで視界が滲んでくる。

やめて。何も聞かないで。
亮太の話は誰にもしたくないのに。


「田上に何かされた?」

「ちがっ」


違うと答えようとしたその瞬間、ドンッ! と大きな音が鳴り響き、同時に視界が真っ暗になった。
停電だ。
遠くまでゴロゴロと雷が響き渡る音が聞こえる。


「かなり近くに落ちたな。大丈夫?」

「はい、大丈夫です。
 ちょっとびっくりしました…」

「とりあえずここを出るか」

「はい」


恐る恐る事務机の間を通って、扉を探そうと手を伸ばすと相沢さんの腕に手が触れた。


「わ! すみません」

「いやいい。むしろそのまま掴まってて。
 一人で動くと危ない」


相沢さんがそのままゆっくりと移動し、ドアに手をかけようとしたときだった。
誰かが廊下を歩いていく音が聞こえた。


「もー! だから言ったじゃん早く帰ろうって!」

「悪い悪い。よし、帰ろうぜ。
 今日はもうこのままお前んちでいいだろ?」

「いいけど明日ちゃんと起きてよ!」

「はいはい起きるって」


思わず相沢さんの服を握る手が震える。
彼も今の二人が誰だか分かったようだ。


「……今のは浮気? それとも新しい彼女?」

「新しい彼女、だと思います」

「なるほどね」


わざわざ私の口から説明しなくても、どういう事情か分かっただろう。


「いつ別れたの?」

「……三日前です」


浮気されてましたと言っているようなものだ。
しかも相手は自分の後輩。
情けない。恥ずかしい。
もうこれ以上何も聞かないで欲しい。


「じゃあ、立川は今フリーなんだな?」

「え?」


相沢さんはそう言うと、服を握っていた私の手を掴み自分の方へ引き寄せた。
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