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嵐の夜に痕をつけられて
第3章 先輩と暗闇と雨 ★
雨の音に自分の嗚咽を重ねていると、背後でカタンッと音がした。
反射的に振り返ると部屋の入り口に男性社員が立っている。

相沢慶吾。
三年前、入社当時の私の指導係だった。

今は隣の部署に異動してしまったが、異動した先では亮太の先輩だ。
私と亮太の関係も知っている。

高身長で若手の人気俳優のような端正な顔立ちをしているから女性社員には人気だ。

でも仕事中は誰に対しても厳しい上に、あまり愛想のいい人ではないから私は苦手だった。

実際、新人だった私への指導も厳しかった。
上司へ物怖じせずに進言する姿勢は亮太とは別の意味で堂々としていると言える。


「あー、ごめん。明かりがついてるから誰か残ってるのかと思って」

「す、すみません。
 すぐに出ますんで。もう帰ります」


まずい。知り合いに見られてしまった。
誰もいないとはいえ職場で泣くなんて社会人失格だ。


「……大丈夫?」

「あ、何でもないです。ちょっと色々あって、
 えっと…すみません、大丈夫です」

「いや大丈夫じゃないだろ。何があった」


急いで顔をハンカチで拭くものの、涙で化粧はぐちゃぐちゃで目は真っ赤だ。

こんなひどい顔は誰にも見られたくない。
泣いている理由なんて聞かないで欲しい。
今誰かと話したらまた泣いてしまう。


「本当に大丈夫です。すみません失礼します。」


顔を上げずに相沢さんの横を通り過ぎようとすると右肩を掴まれた。
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