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人生最後のセックス
第1章 人生最後の
 でも、彼が私と交わしたかった約束は守れない。
 最後の約束は守るよ。無理はしない。一人で抱え込まず、誰かと助けあって生きていく。でもそれが配偶者とかじゃなくてもいいよね。私は彼以外を愛したりしない。
 私は昨夜のとろけて全てが混ざりあったようなセックスを人生最後のセックスにすると決めたんだから。

 彼と最後にセックスをしたあの夜から長い年月が経った。
 五十と数年、私はよく生きた。彼が亡くなってからも二十年近く生きちゃったのかとふと思う。
 私の決意は揺らぐことなく、けれどもたくさんの人に頼り支えてもらい、時には支えながら無理せず生きてきた。
 もう少しくらい生きるつもりだった。けれども病魔には勝てそうになく、私は無理して戦わずに受け入れ、苦しみの少ない治療を選ぶことにした。
 両親は数年前に他界し、私は一人になった。それでも今私のベッドの周りには今までお世話になった友人家族が看取りに来てくれている。
 そんなに泣かなくてもいいのに。
 かすんでいく意識の中、やっと彼に会えると思うと死はあまり怖くない。いや、やっぱり少し怖い。ちゃんと迎えに来てくれるかな。そんなことを思っていると意識が完全に途切れ暗闇に飲み込まれた。

「思っていたより随分早いじゃん。もっとゆっくりでよかったのに」
 目を開けると彼がそこにいた。
「ちゃんと待っててくれたんだ。約束守ってくれて嬉しい」
「菜乃葉は守ってくれなかったけど」
「守ったよ。一人で無理して生きてこなかったでしょ? はるちゃん以外を好きになるなんてできないよ」
「うん、知ってた。菜乃葉にしてはよくやったよ。えらい」
 優しく頭を撫でてくれた彼は手を差し出した。私はその手を握り、彼に引かれるままに歩き出す。
 彼がいれば何も怖くない。ここでまた一緒になれたんだから、何かあって離れることがあっても、また出会い続けることができる。そんな気がした。
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