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縛られたい
第4章 優子さんの願い〜まりあ
「ホテルに泊まるんだったら、
うちに来れば良いのに」と、優斗くんが急に言う。

「えっ?」

「お父さんが仕事の時、寝てる事務所のソファベッドで寝れば?
今、寝袋なんでしょん
それよりは快適だよ?」

「んー。
でも…」

「お父さん、どう思う?」

「まあ、寝袋よりはね?」

「でも、ゆりあさん、気分悪くするんじゃない?
お母様も…」

「じゃあ、お姉ちゃんにも確認して、
土曜日とかにお母さんに訊いてみたら?
ねえ、お父さん、良いでしょ?」

「うん。そうだな…」


なんとなく、そんな話になってしまった。


「多分、契約済んだら引っ越し出来るから…。
1週間くらいだし、
ホテルで大丈夫ですよ?」と言ってみたけど、
優斗くんがウキウキしてるのが判って、
ちょっと困惑してしまった。




土曜日にホスピスに3人で行った。

この日は、車椅子で少しだけ外に出たいと言って、
優斗くんが慎重にゆっくり車椅子を押して陽だまりの中庭に出た。


梅の残り花と、
早咲きの河津桜が咲いていた。


「染井吉野まで、もつかしら?」
と、優子さんが呟いたけど、
優斗くんはその意味が解っていなくて、
私の『下宿』の話を楽しそうにする。


「まりあさん、住んでいる家を誰かに貸すから、
明日、家を出なくちゃいけなくて、
次の引越し先はまだ、入れないんだって。
ホテルに泊まるって言ってるけど、
お父さんの事務所の仮眠出来る処に泊まって貰えば良いのにって思ったんだ。
お母さん、良いよね?」


「ソファベッドで、寝にくいんじゃないかしら?」

「今も寝袋で床に寝てるから、大丈夫だって。
ね?まりあさん?」

「寝袋?」

「あ、ちゃんと冬用ので、
下に簡易的なマットを敷いてるから、
快適に寝てますけど」と言うと、
優子さんはクスクス笑って、
「だったら、是非、どうぞ」と言った。


「あとは、お姉ちゃんだね?
全然、最近、口聞いてくれないから、
確認出来ないんだよ」


「お父さんとお母さんが良いなら、
それでOKじゃない?」と優子さんが言うと、
優斗くんは嬉しそうに笑った。


「お母さん、もう一つ、
お願いがあるんだ」
と、優斗くんは真剣な顔をした。
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