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私じゃなくても
第1章 隣の部屋
「いや、そーやのうて」

俺はその時
何度も謝ってるワンちゃんが
可愛そうに思えて仕方なかった。
せやから
余計に助けたなって…

「なんかが割れる音もしてたし
赤ちゃん無茶苦茶泣いてたし
てゆーかまだ泣いてるし
なんか
大丈夫かな思うて
手伝うことあったら」

差し出がましい
そうかもしれへん
けど
部屋の奥は散らかってて
赤ちゃんは泣いてて
ワンちゃんの目も赤くて
そんな全然知ってる人でもないねんけど
絶対
ワンちゃんは大丈夫なんかやなくて

俺は
そんなワンちゃんを
ほっとかれへんかった

「上がってもいいですか?
とにかく赤ちゃんを」

「あ、あの…」

そのワンちゃん声は
少し震えていた。

「はい」

「あの……、千華が
すごい熱なんです」

その言葉と同時に
ワンちゃんの瞳が
涙でいっぱいになった。

熱?
赤ちゃんが熱?!!
あかんあかんあかん!
やばいやんけ!

「だ、大丈夫、大丈夫。
えーっと、とにかく…」

とは言うたものの
こんな時どーしたらええとか
俺は全く分からず

「ちょ、と、とりあえず病院?」

と、提案すると
ワンちゃんは
小さく何度も頷きながら
部屋の中へと
戻って行ってしまった。

え?、俺、置き去り?
上がってええの?
しゃあないから
勝手に上るで?

俺は
やや小声で
「失礼しまーす」
と、声をかけて
ワンちゃんのあとに続いた。

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