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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第4章 Valet & Earl 〜従者と伯爵〜
「…なんだよ、全く…。
何がレディと踊るのは飽きただよ…」
大きな一枚硝子の窓越し、舞踏室で華麗に踊る北白川伯爵のシルエットに、狭霧は毒づく。

「…プレイボーイめ…!」
フンと背中を向け、バルコニーの欄干に身体を預ける。
結局、やっぱり伯爵は女好きなんだ。
事実、美しい貴婦人や可憐な令嬢を侍らすのが、とてもよく似合っている。
男色の気はなさそうだし…。
と、少しだけ落胆する自分に気づき、慌てて首を振る。

何をがっかりしているんだよ。俺は。

伯爵は亡くなってはいるが夫人がいたし、子どももいる。
完璧なヘテロじゃないか。

…でも…。
…さっき、何を言いかけたのかな…。
もう一度、舞踏室を振り返る。

シャンデリアの煌めきの中、優雅に…優しくパートナーを見つめリードする伯爵と、華やかなベビーピンクのドレスで恥じらいつつも蕩けそうな眼差しで伯爵を見つめるうら若き深窓令嬢…。
まるで、お伽噺の美しい王侯貴族たちのようだ…。

…やっぱり、住む世界が違う。
寂しく微笑みながら、背を向ける。

そうして、暗い鬱蒼と茂る森のような庭園をぼんやりと見つめる。
庭園の奥、月灯りに照らされた石造りの噴水には女神像が佇み、さながら舞台装置か何かのように夢幻的に見えた。
…俺は何をしているんだ…。
なんだか、虚しくなる。

…と…

「…まあ…。
貴方のご主人様は、随分とおモテになるようねえ。
ワルツの行列ができるなんて、初めて見ましたよ」

低く、隠し難い威厳の潜む声が背後から響き、狭霧は咄嗟に振り返った。









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