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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第4章 Valet & Earl 〜従者と伯爵〜
スーツの上着を伯爵に着せる。
…均整の取れた骨格としなやかな筋肉をした男の体に、ぴったりと沿うように仕立てられた完璧なシルエットの美しいスーツだ。

…狭霧は思わず見惚れる。
鏡の前に立つ伯爵の背後から洋服ブラシをやや緊張しながら掛ける。

これから大使館に出勤する伯爵は、ビジネス用の濃灰色の落ち着いた色合いのスーツ姿である。
すらりとした長躯の手足の長い体型なので、西洋人並みに…いや、高雅で理知的な雰囲気は彼らにはないものだ…洋装が良く映えるのだ。


そこに軽いノックの音が響き、マレーが部屋に現れた。
「失礼いたします。
旦那様…今夜のロシュフォール公爵様の夜会のお召し物をお持ち致しました。
ご確認をお願いいたします」
マレーが恭しく正装一式を差し出した。

…ロッシュフォール公爵…?
狭霧ははっとする。
…もしかして…

狭霧の表情の変化に、北白川伯爵は微かに微笑んだ。
「…そう。
ファビアン・ド・ロッシュフォール公爵…。
礼也くんの巴里の友人、ジュリアンは公爵の御子息だ」

「…あ…」
…やはりそうだ。
縣礼也が、狭霧たちが巴里で困ったら訪ねるようにと住所を教えてくれた、フランス人だ。
…結局、彼を訪ねることはなかったけれど、その名前は礼也の温かな好意の象徴のように、狭霧はずっと覚えていたのだ。

伯爵は不意にマレーに伝えた。
「…マレー。
今夜の公爵の夜会に、狭霧を従者として連れてゆく。
私が大使館から帰る前に、彼の支度も整えてやってくれ」

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