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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第4章 Valet & Earl 〜従者と伯爵〜
「こちらこそよろしく」
「キタシラカワ伯は、俺たち従者の中でも人気の貴族の旦那様さ。
偉ぶらないし、気さくで誰にでも平等に優しい。
…そんな貴族は珍しいんだぜ?」
「…東洋人は普通少し低く見られがちなんだけれど、monsieurキタシラカワは違う。
フランスの上流社会でもとても尊敬されていて、一目置かれていて、好かれている。
誰もがmonsieurキタシラカワとは親しくなりたがる。
…特に女性は…ね」

狭霧は瞬間的に眉を顰めた。
「…え…?」
「君の旦那様は本当におモテになるってことだよ。
日本の大貴族で大使館公使、オリエンタル・ハンサムな上にコスモポリタン、フェミニスト。
理知的で話題は豊富、ダンスも乗馬もクリケットもなんでもござれ。
モテない訳がない。
それに、今は独身だろう?
だから尚更だ。
monsieurキタシラカワを狙っている貴婦人やご令嬢は星の数ほどいるのさ」

「…そう…なんですか…」
…なんだか、面白くない。
胸の中にもやもやとなんとも言えない不快な感情が立ち込める。
そんな自分が理解できない。

「…従者は貴婦人やご令嬢から旦那様へのお手紙のお取り次ぎという重要なお仕事もあるんだが、キタシラカワ伯の従者はそれは忙しいことだろうよ。
何しろ鵜の目鷹の目で、皆、伯爵に近づこうとする方ばかりだからな」
「そうそう。
サギリくん。頑張りたまえよ。
キタシラカワ伯の恋の交通整理はなかなかに難易度が高いぞ」
従者たちは愉快そうに笑ったのだ。


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